忘れ癖と勘違い勇者の話
忘れ物癖がなおらない。
いつもほぼ同じものを持ち歩いているにも関わらず、毎朝出掛ける際に玄関を開いて、忘れ物に気付き、一度戻ると言う行動が日常化している。
持っていこうと思って玄関に置いておこうものならそのまま玄関に置いていき、たまに弁当でも作ろうかと作ってみた日には、自宅で冷めていく弁当を思い浮かべながら買い食いすることになる。
今日に関しては、朝いつものように玄関を開けてからハンカチとイヤホンを忘れていることに気付く。
それらを持って車での移動中、イヤホンを装着しようとスマホを探す。見つからない。そうだ、電話だ。電話して音をならそう。そうすればどこにあるかわかるはず。ああああスマホがないから電話を掛けられない!なんと言うことだ!
何のためにイヤホンを持ってきたのか。
ため息をつきながらタバコを吸おうとポケットに手を入れる。ポケットは空だった。
自分のくそったれ!
昼休みにタバコを吸うわけでもスマホをいじるわけでもなく、初めてこんなに休憩時間が長く感じた。ふてくされて昼寝してたら喫煙所仲間のパートのおばさんが一本ずつタバコをくれて、いつもより多目に吸えたので一件落着。
その日自販機でコーヒーを買おうと思ったのに、何度も百円玉を返却されたので私には何か妖怪がとり憑いているのかもしれない。
今日は母に誘われて妹、妹の娘で夕飯を食べることになったのだが。そこでのゆうだいくんとの会話がまた予想もしない方向へ。
先に食べ終わったゆうだいくんは暇をもて余していた。はしゃいだり、騒いでいたので私は注意する。
「これ以上騒ぐとどうなるか、わかる?」
「たたかれる」
その通り。私はやるときはやるぞ。
「叩かれない為に、ゆうだいくんは、どうする?」
「うーん……あ!
たたかう!」
勇者かよ。まっすぐな瞳でこちらを見据えるその姿は、まさしく勇者のそれであった。
その後きちんと説明したらわかってくれたので私の黄金の右腕は今のところは封印しておくことにした。